はじめに:耳を疑う発言
鈴木憲和農林水産大臣の記者会見を聞いて、耳を疑いました。「来年から米の生産を減らす」「米の価格は需要と供給に任せる」――この二つの発言は、同時に成立しません。政府が税金を使って生産を抑える時点で、それは自由な需給ではなく統制経済だからです。
水田活用の直接支払交付金とは
現在の「形を変えた減反政策」は、正式には「水田活用の直接支払交付金」と呼ばれています。表向きには「米離れの進行に対応し、麦や大豆などへの転作を支援する制度」とされていますが、実態はかつての減反政策の延長線上にあります。
この交付金に使われている税金の総額は、年間およそ3,000億円。2022年度は3,050億円、2023年度も2,918億円が予算として計上され、ほぼ同水準で続いています。つまり政府は、米の生産を減らすために、毎年3,000億円もの国費を使い続けているのです。
交付金の仕組みと内容
この交付金は主に二つの柱から成り立っています。
- 戦略作物助成: 麦や大豆、飼料用米、加工用米など、米以外の作物を生産する農家に対して支給される補助金。10アールあたりの助成単価は、麦・大豆・飼料作物で3万5,000円前後、飼料用米の場合は収量に応じて5万5,000円から10万5,000円とされています。
- 産地交付金: 地域が裁量を持って使える交付金で、特産品づくりや転作支援に活用されています。
こうした支援によって、20ヘクタール規模の農家では年間およそ940万円もの補助金を受け取るケースもあります。
消費者への二重負担
農業経営の安定化は重要ですが、その資金の原資はすべて国民の税金です。つまり、消費者自身が税金で減産を支え、その結果として価格が上がった米を自分の負担で買わされている構図です。これは明らかに二重の負担です。
減産に税金を使い、価格が上がった米を買う。消費者にとって、これほど理屈の通らない政策はありません。
「需給に任せる」という矛盾
農水大臣は「米価は需要と供給に委ねる」と言いましたが、もし本当に需給に任せるのであれば、政府が生産量を誘導すること自体が矛盾しています。市場原理とは、供給が多ければ価格が下がり、少なければ上がるという自然の調整作用です。そこに政府が介入して「減らしたほうが良い」と誘導する時点で、市場原理は完全に形骸化します。
構造改革を妨げる補助金依存
そもそも米の消費量は毎年減少しています。それにもかかわらず、減産政策を維持して価格を高止まりさせることは、消費者に負担を押しつけるだけでなく、農業の構造改革を妨げています。本来、価格下落を恐れるのではなく、生産性向上や輸出強化などで市場を拡大していくべきです。
ところが現実には、補助金依存の構造が続き、農家も行政も「補助金ありき」の体質から抜け出せていません。これでは若い世代が農業に参入する動機を失い、結果として日本の農業全体が衰退していきます。
「減反廃止」は名ばかり
「減反廃止」は2018年に表向き終了したはずですが、実態は何も変わっていません。政府が「自主的な生産調整」と言い換えているだけで、交付金による誘導が続いているのです。つまり、“自発的に見える強制”という矛盾した政策です。
本当に市場原理を尊重するなら
真に「需要と供給に任せる」のであれば、減産補助金を一円も出してはいけません。農家が市場に合わせて自由に作付けを判断し、価格は市場が決める――それが本来の市場経済です。
政府がやるべきことは、生産を制限することではなく、販路拡大や輸出支援、耕地集約化などの構造改革支援です。
結論:政策の矛盾を正せ
鈴木農水大臣の言葉と実際の政策の間には、明確な論理的矛盾があります。減産に3,000億円もの税金を使いながら「需給に任せる」と言うのは、まるでアクセルとブレーキを同時に踏むようなものです。この不自然な構造を正さなければ、日本の米政策はいつまでも“補助金頼みの延命策”から抜け出せません。
自由な市場原理を尊重するなら、まず減産補助金の廃止から始めるべきです。そして、農家が真に「自立して利益を上げられる仕組み」を構築しなければ、日本の食料安全保障も消費者の生活も、どちらも守れないでしょう。

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