「東京は地方から人材を収奪している」――小池都知事の“偏在否定”は本質を見ていない

2025年12月4日、日経新聞が「偏在是正」についての小池百合子東京都知事の発言を報じました。

「1人あたりの一般財源額は全国平均とほぼ変わらない。どこに偏在があるのか」
「パイの切り分けはデフレ政策と変わりがない」

小池知事はこのように述べ、政府が検討する都市と地方の税収格差是正に不満を示しました。しかし、この発言には重大な問題があります。それは 「偏在」の本質を完全に取り違えている という点です。


目次

「1人あたり一般財源は変わらない」論は、本質からズレている

小池都知事が示した反論はこうです。

  • 1人あたり一般財源
    全国平均:22.9万円
    東京都:23.8万円
    → だから税収の偏在は存在しない。

しかし、これは 偏在の問題をまったく説明していません

「1人あたり」で一般財源を比較しても、地方が背負ってきた 出生から教育までの莫大な育成コスト が一切考慮されないからです。


本当の偏在とは、“人材育成コストの不公平”である

まず知っておくべき重要な事実があります。

東京都に住む人の多くは 地方出身者 です。生まれたのも、育てられたのも、教育を受けたのも地方。東京都は、その「完成した労働者」を受け入れるだけで税収を得ています。

つまり、

  • 地方:育成コストを負担(総額3000万〜4000万円/人)
  • 東京:育成コストゼロで労働力を獲得し、税収だけ得る

これが、現在の日本の「構造的な偏在」です。

小池知事の言う「1人あたり一般財源」は、この構造をまったく反映しません。


地方は費用だけ負担し、利益を得られない

地方自治体が負担しているものは次のとおりです。

  • 妊婦健診
  • 医療費助成
  • 保育園の整備
  • 幼稚園・学校教育
  • 給食費補助
  • 道路・上下水道などのインフラ維持

これらは合計すると、子ども1人あたり 3000〜4000万円 にも及びます。

しかし、その子どもが成人すると多くは東京へ移ります。

結果として、

  • 地方:育てただけで終わり。税収は得られず人口は減る。
  • 東京:育ててもいないのに税収だけ得る。

地方の財政が苦しくなるのは当然です。


東京は“行政効率による利益”も独占している

東京は人口密度が高いため、公共サービスに必要なコストが地方より圧倒的に低く済みます。

  • 公共交通の整備コスト
  • 上下水道の配管距離
  • 学校・病院の統廃合負担
  • 高齢化率の差による医療・福祉コスト

つまり東京は、

  1. 地方が育てた人材を“無料で”獲得
  2. 行政コストは地方より安く済む
  3. そのうえで税収を最大化できる

地方から見れば、これはまさに 収奪構造 です。


小池都知事の反論は、本質を回避している

小池知事は「チルドレンファースト」を掲げていますが、地方から若者を吸い上げ続ける限り、日本全体の人口構造は歪んだままです。

  • 地方:若者を失い衰退
  • 東京:過密で生活コストが上昇

これは「東京 vs 地方」ではなく、日本の構造的な危機 です。

地方から人材を奪い続ければ、最終的に東京自身の持続性も失われます。


偏在是正は“東京の財源を奪う政策”ではない

本来あるべき偏在是正は、次のようなものです。

  • 地方が負担した人材育成コストへの補填
  • 地方が失った税収の補完
  • 地方インフラ維持への支援

つまり、偏在是正とは

「都市部が地方に適切な補償を行う仕組み」

であり、都市の財源を取り上げる政策ではありません。


結論:小池都知事の主張は偏在の本質を見ていない

東京都が豊かであり続けられるのは、地方が支えてきた子育て・教育・医療・インフラの上に成り立っています。

地方が倒れれば、東京も倒れます。

地方:育てて失うだけ
東京:受け入れて税収だけ得る

この構造を正さなければ、日本の衰退は止まりません。

偏在是正は、日本の縮小を防ぐための最低限の仕組みです。

小池都知事は「偏在」の概念自体を理解していない可能性がある

小池都知事の発言を読むと、地方が負担してきた人材育成コストや、都市と地方で異なる行政コストの構造といった制度的な偏在の背景を理解していない可能性があります。

これは今回の件に限った話ではありません。東京都は過去にも、新築住宅への太陽光パネル義務化など、法律の枠組みや技術的妥当性を十分に検討したとは言い難い条例を推し進めてきた経緯があります。

もちろん政策判断には信念や価値観が反映されますが、一方で、制度の根拠となる数字やデータが十分に検討されず、「感覚的なイメージ」で政策メッセージを作っている印象を受ける場面も少なくありません。

今回の偏在是正への反論も、その延長線上にあるようにみえます。地方から都市への人口移動の構造や、自治体が負担してきた子育て・教育コストの実態を踏まえるなら、「1人あたり一般財源はほぼ同じ」というデータだけで偏在が否定できるはずはありません。

むしろ、このように論点をすり替えてしまう姿勢こそが、日本における都市集中と地方衰退の問題を長年放置してきた原因の一つではないでしょうか。

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